サーッと血の気が引く、心臓の音がドクドクと自分の耳の頭の奥まで聞こえてきた。
マウスを持つ手は汗ばんで硬直していたに違いない。
一瞬何を見たのか 自分でもよく分からないくらいの動揺。

これ程までにショックを受けたその写真は、、、

2ちゃんねるという掲示板の存在は知っていた。以前に友人が
“ねぇ 2ちゃんねるって知ってる? 
なんか 犬猫大嫌いって板があって酷い虐待文が書いてあるらしいよ。”
と言っていたのは昨年の
9月だった。

興味本位から恐る恐るYahooで“2ちゃんねる”と引き、そこの掲示板に行ってみた。
たくさんのカテゴリーに分かれていて初めての私には理解が出来なかったけれど、
とりあえず“犬猫大嫌い”というカテゴリーに行ってみた。
パッと見て もうこれは精神的によくないと思い急いでウィンドウをクローズした。
一瞬の間に目に入ってきたものは、
“タバスコを猫の肛門に塗ると楽しい、ワサビを食べさせると笑える”
といった文字だった。

それから数ヶ月たまに2ちゃんねるの話題は悪名高い掲示板として時折耳にしていたけれど、
もう訪れる事はなかった。

私が通常運営している猫好きのためのサイトに、
いつもの猫仲間が猫をネット上で虐待した奴がいる、という書き込みを残して行った。
よく聞いてみるとあの2ちゃんねる上で子猫を虐待してその画像をネット上で流したらしい、
2ちゃんねるの他のカテゴリーにいた良識ある人々が集まり、
IPアドレスを調査、警察への通報、そして書類送検になったとか、、

ネット上で虐待なんて 随分陰湿な事件だなぁとは思っていたが、
この時点では事件の全貌を知っているようで 実は全く知らない状態だったのだ。

“例のネットで猫虐待した男の顔写真が載ってるサイトがあるよ。
探偵ファイルです。興味があったら見てください”
と書き込みが掲示板にあったのが
5月の末、いや6月の始めだっただろうか、
それから数日後ふと思いついて、その探偵ファイルに行ってみる事にした。

当時の記録、犯人の顔写真の後に大きく赤い字で

“ここから先は心臓の弱い人は見ないでください”と書かれていた。
駄目、やめた方がいい、進んじゃいけない、
と頭の中で警告が鳴り響く、
私の意志に逆らうかのように私の右手は勝手にマウスを下にスクロールして行き、
私の眼差しはPCの画面上に釘付けだった。。

上から写真が少しずつ見えてきて、早くなる動悸、
頭の中に鳴り響く見るな!という警告、
マウスを握り締める手は力を入れるあまり鬱血していただろう。

頭をガツンと殴られたような衝撃、平手打ちをいきなりくらったようなショック。
そこにあった 虐待写真は言葉に言い表す事が出来ない程だった。

一枚目の写真は猫好きの私からすれば、
ごはんを貰って“美味しいね、これ ありがとう。”
と微笑んでるようなぺロッと舌を出した愛らしい写真だった。
お腹が空いていて一気に食べたのだろう。
手前に置かれた猫缶は底が見えていた。
肌色に近い色の底の深めのバスタブの中にいる。
マンションやアパートによくあるタイプの浴槽だ。

二枚目の写真は紐かワイヤーでぐるぐる巻きにされ、
痛そうに顔をしかめている。愛らしい顔が苦痛で歪められている。

三枚目は、、これから先はこうして文章にするのもためらわれる。

ペンチでしっぽが切られ痛さでうずまくり、
身動き出来ず、それでも犯人に向かって 
“どうして、何で?痛いよ、なんで?”と精一杯懇願している顔だった。。

私には、しっぽはない筈なのに、
まるで自分のしっぽがペンチで突然中途から切られたような痛みを感じた。

それから先の写真をどう見たかはその時点では動揺して覚えていない。

最後の写真に、もう繋がっているかどうかも分からない猫の首に
“私は敗北者です”と書いたCDが掛けられていた。
猫の瞳は恐怖の数時間の後、完全に瞳孔が開ききっているように見えた。

それから数日、忘れようとした。私には何も出来ないしどうしようもない。

いつから日本はあんな陰湿な人間が蔓延る社会になったのだろう。
アメリカで暮らしてる私に何が出来るわけじゃない。

忘れようとする私の脳裏に
その写真は痛みはフラッシュバックのように一日に何度も何度も襲ってきた。
知らずに涙が出てくる、それは悲しみの涙じゃなくて痛みの涙だった。

一日に何度も発作のように痛みの涙は襲ってきた。
事件の内容を知れば知るほどその痛みは全身に及んできた。
切られたのはしっぽだけじゃなかった。足も切られた。耳も切られた。
割り箸をおしりに刺されたらしい。声が出ないように喉に穴を開けられた。
動かないように熱湯をかけられた。
そして、それを煽った人間が囃し立てた人間達がいた。

一人になると何度も何度も全身が硬直するような痛みに襲われて涙がとめどもなく出てきた。
眠れなかった。浅い眠りにしかつけずに何度も起きた。

気がついた時に私は、PCの前で
この虐殺された猫をどうにか天国に送りたいという一心でサイトを作り始めていた。

このままで終わらせてはいけない。

この子を虹の橋の向こうに送りたい。

あんなに人間を信じてたのに、捨てられて、
そして、身体を生きたまま切り刻まれて、二度も人間に裏切られて逝ってしまった命。

いつの間に人間はこんなに自分勝手になってしまったのだろう。
猫だって痛い、人間と同じように感情も愛情もあるのだ。
なぜこんな陰湿な事件が起きる社会になってしまったのだろう。

この子の痛みが私に心の痛みとなって伝わってきた。

それから数日間 PCの前にほとんどの時間座っていた。
絶え間なく流れる涙を拭う間もなくPCを打つ姿は、はたから見たらさぞ奇異に映ったに違いない。

ベッドに横になっては悪夢で起こされた、
数時間寝たか寝ないかの日々が続いた。
食事をする間も惜しく、PCの前に座ってサンドイッチやドーナツを片手で掴みながら、
片手でキーボードを打った。

この子を虹の橋へ送ろうという気持ちと同時に、こんな事件は二度とあってはいけないと強く思った。
現行の愛護法では書類送検だけで済んでしまうのが普通だと言う。
書類送検だけ?あんなに酷い事をして、何も出来ない小さな命を弄び、
犯人が書類送検されたとはいえ、実名報道さえされないのが日本なのか?
ネット上で行われた猫の公開虐殺、
これが猟奇事件だという事さえ気付かない程日本人は鈍感になってしまったのだろうか?
FBIのプロファイルでは
殆どの連続殺人犯が少年期に動物を虐待、虐殺している事を証明している。
アメリカでは動物虐待は人間への犯罪の警鐘として重視されている。 
この犯人が一部のネットの虐待愛好者の間でヒーロー扱いされてるという噂も聞いた。
歯車がずれてる、何かが狂ってる。この子猫はずれて来ている社会の犠牲になった弱者だ。

私に何が出来るだろう、何の力もない。
でも何かをしなくては日本の動物虐待は止まらない。

 “口の聞けない動物達は泣いている”というサイトで嘆願書を目にした。
嘆願書、署名、署名運動などした経験がないし
効果があるのかも分からないけれど自分は署名をしてアメリカから郵送してみよう。
皆にも送って貰おう。

そのサイトから嘆願書の例文を貰った。
有志の人が署名用紙を作成してメールで送ってくれた。
誰もが家庭のPCや会社のPCから簡単に印刷出来るように工夫してサイトに載せた。

イラストを仕事にしている猫仲間に頼んでバナーを作って貰った。
一人でも多くの人がバナーを自分のホームページに貼ってくれるように
小さめのバナーを作成して貰った。

粘土細工を作成しホームページを運営している女性もこの事件を知りショックを受けていた。
彼女も数日眠れぬ夜を過ごした後、
この猫が五体満足で虹の橋を渡れるようにとの想いを込めて夜通しで人形を作った。

“Mimiさん 人形が完成しました。”

送られてきた人形の写真は、
切られたはずのしっぽは嬉しそうにやや上を向き、
純粋な瞳で前を見つめて、そして背中には羽が生えていた。

彼女のありったけの想いが込められている人形の写真を見ただけで、また涙が止まらなかった。

探偵ファイルの探偵さんの記述によると猫の遺体は結局見つからなかった。

しかし 近辺にはやはり虐殺されたと思われる猫の遺体が数体あったらしい。
それらの遺体と共にお坊さんに探偵さんがお経を上げてもらった。

この虐殺された猫につけられた戒名は“こげんた”。

その名前が私のサイトの名前となった。

これが ++Dear,こげんた++ サイト誕生のきっかけです。